相続法改正①

相続法が大幅に改正されますので、その要点を整理してみたいと思います。
主な改正点は次のとおりです。

①配偶者居住権の創設
自筆証書遺言の方式緩和及び法務局による遺言書保管の開始
相続人以外の特別寄与料の創設
④遺産分割に関する見直し

⑤遺留分に関する見直し
⑥相続の効力に関する見直し

今回は①の配偶者居住権についてまとめてみたいと思います。

配偶者居住権とは、遺産分割・遺贈又は死因贈与契約によって被相続人の配偶者に与えられる、居住建物の使用権原のみを認める権利です。その名のとおり被相続人所有の家に居住していた配偶者が、引き続き居住することができる権利を言います。

なぜこの制度が創設されたのかというと、下記事例でご説明いたします。

【事例】
被相続人A 配偶者B 子C
相続財産:持家(2,000万円) 預貯金(2,000万円)
法定相続割合 B2分の1 C2分の1

上記事例でBとしては、当該持家に住み続けることができ、今後の生活をしていく上で預貯金もある程度取得できるように相続したいと考え、Cも法定相続分は取得したいと考えているとします。

しかし、Bが今後も居住を続けるため持家を相続すると、それだけで法定相続分に達してしまい預貯金を相続することができない可能性が出てきます。

反対にBが預貯金の全てを相続し持家をCが相続した場合には、Cとの関係が良好でなく家を出て行くよう言われてしまうと、Bとしてはその家に住み続けることができなくなることもありえます。

そこで、上記の問題を解決するため配偶者居住権が創設されました。以前は持家の相続は所有権以外に無かったのですが、この制度では持家の権利を所有権と配偶者居住権の2つの権利に分けて考えます。

本事例でいうと、Bが持家に居住するために配偶者居住権を相続した場合には、配偶者居住権の評価額は所有権の評価額以下となるため、預貯金についても相続することができる余地が生まれます。

つまり、以前の法律では困難だったのが今般の法律改正により、配偶者の今後の居住を確保すると共に今後の生活資金たる現金についても相続しやすくなったと言えます。

※配偶者居住権の評価方法については、いろいろな計算方法があるようです。そちらについては運用方法が確定した後に改めて掲載できればと思っています。

以下、配偶者居住権についての要件や注意点をまとめてみました。

<配偶者居住権の要件>
・被相続人の配偶者が相続開始時において被相続人所有の建物に居住していたこと。
・上記建物について配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の遺産分割協議・遺贈又は死因贈与がされたこと。

<注意点>
・配偶者居住権は登記をすることができ、登記をしなければ第三者に対抗することができない。(例えば配偶者居住権の登記をする前に、第三者がその存在を知らずに買い受けて所有権移転登記を受けた場合には、配偶者は当該買主に対して配偶者居住権を主張することができないことになります。)
・配偶者とはあくまで婚姻関係にあった者であり、内縁の配偶者は含まれない。
・当該建物に被相続人以外の他の共有者がいる場合には配偶者居住権は認められない。
・遺言に記載する際は、「配偶者に配偶者居住権を遺贈する」と記載する必要がある→「配偶者に配偶者居住権を相続させる」は認められないと言われている。
・法律施行日は令和2年4月1日であり、それより前にされた遺贈(遺言)には適用されず無効となってしまう。

<配偶者居住権の特徴>
・原則として配偶者の終身の間存続するが、存続期間を定めることもできる。なお、存続期間を定めた場合は延長や更新はできない。
・配偶者居住権は配偶者のみ取得することができる権利であり、譲渡することができない。(一身専属権)
・配偶者居住権は登記をすることができる。(登記をすることが第三者対抗要件)

<まとめ>

配偶者居住権は配偶者の権利を守るために創設されたものですので、現行法に比べて間違いなく配偶者の方にとっては有利になるかと思います。

司法書士の立場からは、相続登記自体は第三者対抗要件ではありませんので、通常はそんなに急ぐ必要もないのですが、配偶者居住権がある場合は状況が変わってきます。

なぜなら、配偶者居住権は登記をすることがその権利を主張することができる方法(第三者対抗要件)になっており、そして配偶者居住権の登記を行うためには前提として相続登記を行わなければならないからです。

配偶者居住権を取得された方は、相続登記及び配偶者居住権の登記は可及的に速やかに行うべきと認識されていた方が良いかと思います。

横須賀の司法書士 DARES(ダレス)司法書士事務所